海に消える
夜双曲
海に消える

登場人物
メル(女)23歳の鯨の魔法使いで優しい性格。
ルカ(男)23歳の鷹の魔法使いで頼りがいがある。
ダン(男)25歳の王国の編纂者で人懐っこい。
リアム(女)12歳くらいの少女のクラゲの使い魔で、悪戯っ子。
サイレーナ(女)年齢不詳の封印された海の魔女で傲慢な性格。

あらすじ
 フラスカには双子のメルとルカという魔法使いがいて、この国を統治し、国民を守る存在である。
 国の洋上には幽霊船がいつもポツリと浮かんでいる。それの見回りと、二人は伝統としていつもお祈りを欠かさなかった。
 今日は年に一回、数日かけて多なわれるシア・メルカ祭の最終日である。
 願いを流し、あとは呪いをするだけだった。しかしーー霧笛が鳴った。

○深海 鯨の独白
深海、体に物語の刻まれた鯨が話し始める。

メル「ある一頭の鯨が海を往きます。ひとりぼっちで、今日も深海と水面を行ったり来たり。誰にも届かない声で、今日こそはきっと誰かが返事をしてくれるのではないかと、期待して歌を歌います。無限に広がる海の中で歌ったところで、返事なんて返ってくることもないと分かっているのに。どうして鯨は、ひとりぼっちなのでしょう。これは数百年、時を戻したある島国のお話です。…あの日に帰りましょう」

鯨の鳴き声がする

○フラスカ灯台 祈りの部屋(早朝)

その部屋は、教会の様である。
部屋の椅子にメルが座っていると、ルカがやってくる

ルカ「メル、朝の見回り終わらせて来たよ」
メル「ありがとう。あの幽霊船、どうだった?」
ルカ「今日も位置は変わらず、って感じ。動きなし」
メル「…安全そうってことだね、良かった」
ルカ「古代からずっとあの幽霊船があって、僕らの警戒対象になってるのっていつも思うけど不思議な感覚だよね。僕らだけずっと古代を生きている、みたいな感じ」
メル「そうね。今までずっと、あの幽霊船の異常や危険が無いかを代々見てきてるんだもん…言われてみれば、私たち魔法使いって古代を生きているのかも」
ルカ「ま、考えてもしょうがないか。…今日は、シア・メルカ祭の最後だね、頑張ろっか」
メル「そうだね、頑張ろう。よし、お祈りしよっか」
ルカ「いつも通りそっちから初めて」
メル「…このフラスカの地を、悪しき魔女より救ったマルメリド様。本日も良き日になりますようお守り下さい」
ルカ「空を往き、地を駆け、この地に住まう島民の幸せをお守り下さい」
メル「島の命を支え、海往く者の航海の安全と豊漁をお守り下さい」
ルカ「我ら、鷹と鯨の魔法使い。力を尽くし、島を守ります」
メル「我らにどうぞ、力をお与え下さい」
ルカ「本日も皆が心穏やかに過ごせますように」
メル「本日もより良い一日でありますように」
ルカ「…よし、終わり」
メル「今日も頑張りましょ」
ルカ「うん」
メル「朝ご飯作ってくるね」
ルカ「そしたら、僕はその間にこの部屋を掃除しておくよ。時間余ったら、市場にひとっ走りして果物でも買ってこようかな」
メル「ありがとう、助かる」
ルカ「あ、僕、アレ食べたいな」
メル「昨日の朝、市場で買った花鰯(はないわし)でしょ? 任せて!」
ルカ「じゃ、よろしくね」
メル「はいよー、また後でね!」

部屋を出ていくメル

ルカ「皆が心穏やかに過ごせますように、ね」

溜息をついて、掃除用品を取りに行くルカ
暗転
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