あの日から
   幕開け。
   【学校の屋上・放課後】
   舞台上に涼子。飛び降り自殺を試みるも、しり込みする。

アヤメ:見~ちゃった、見~ちゃった!弱虫が怖気づいてるトコ。
涼子:誰……?!
アヤメ:(欠伸をしながら)もう、折角ゆっくりしてたのに、起こさないでよ。
涼子:(少しずつ屋上の縁から後退りながら)(アヤメの制服を見て)部外者は立ち入り禁止よ?
アヤメ:やっぱり怖いんだ。まあ、そうだよね。こんな高さから落ちたら、頭を打って即死だもんね!
涼子:何言ってんの、アンタ。
アヤメ:あれ。しようとしてたんじゃないの?自殺。
涼子:そう、だけど……。
アヤメ:やっぱり怖いんだ?
涼子:別に怖くないし。
アヤメ:そうなの?そうは見えなかったけどなあ。
涼子:そこから飛び降りるだけだし、そのくらい……。

   涼子、宙を仰ぎ、深呼吸をする。
数歩、屋上の縁に近づき、覗き込む。半歩、後退る。

アヤメ:ほら、できないじゃない。
涼子:(きまりが悪そうに、目をそらす)……
アヤメ:簡単よ?そこから一歩、進むだけ。それだけで終わらせられるのよ?
涼子:さっきから何なの?!偉そうに!どうせ、アンタもできないくせに。
アヤメ:できるわよ?
涼子:じゃあ、やってみなよ!

   鼻歌を歌いながら、平然と屋上の縁まで歩いていくアヤメ。
   落ちる直前で、涼子が声を上げる。

涼子:待って!ちょっとタンマ!
アヤメ:なによ、あなたがやれって言ったんじゃない。
涼子:そうだけど!アンタ、頭がおかしいんじゃない?!だって、落ちたら死んじゃうんだよ?
アヤメ:あなただって、やろうとしてたでしょ。
涼子:してたよ!でも、私には、そうするだけの理由があるし……
アヤメ:へえ、どんな?
涼子:それは……
アヤメ:家庭環境?それとも、いじめに遭ってるとか。
涼子:いや……
アヤメ:試験の結果が散々だった?友達と喧嘩した?恋人に振られた……は、無さそうねえ。(涼子をまじまじと見つめながら)
涼子:失礼ね!
アヤメ:まあ、どうでもいいわ!
涼子:はあ?!
アヤメ:ほらほら、理由があるなら、いいじゃん!早く飛び降りちゃいなよ。
涼子:やるよ!でも、アンタがここから消えたらね。人に見られながら死ぬなんて、なんか嫌だし。
アヤメ:それなら気にしないで!だって、私、人じゃないもの!二十五年前、私はこの屋上から飛び降りた。ひゅうと頭から落っこちて、グラウンドの地面でぐぢゃり。いわゆる、幽霊ってやつ?だから、私なんか気にしないで、飛び降りちゃえ!
涼子:なに下らないこと言ってるの……
アヤメ:(大きくため息を吐き、涼子に手を差し伸べる)握手!

   涼子はアヤメの手を取ろうとするが、寸でのところで触れない。

涼子:あれ、なんで、触れない……?(何度も手に触れようとするが、触れない。)
アヤメ:だから言ったじゃない。私は幽霊だ、って。
涼子:嘘だ……
アヤメ:まだ信じてくれないの?もう一回、触ってみる?
涼子:もう、いい。
アヤメ:……私は、全然怖くなかったよ。あなたは?なんで死にたいの?
涼子:……つまらないの。私は何もできない凡人で、顔は可愛くないし、成績も、悪くはないけど良くもない。人に自慢できるような特技があるわけじゃないし。人と関わるのも苦手で、友達もいない。本当に、ただ、つまらない。これからもこんな私が生きていたって……。
アヤメ:なんだ、そんな理由か。
涼子:そんなって……!私は真剣に
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