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自殺志願者のための小フーガ　第一番　ト短調

【登場人物】

　奥澤　瑞希（おくさわ　みずき）
　草柳　凛（くさなぎ　りん）
　三波　蒼衣（みなみ　あおい）
　槙原　時子（まきはら　ときこ）

【１】
　　　　　　　　　ショパン作曲、エチュード、作品十、第四番、嬰ハ短調。
　　　　　　　　　弾いているのはまだ幼げな面立ちの少女。
　　　　　　　　　盛大な拍手。

【２】
　　　　　　　　　十月の終わりか、十一月頃と思われる。
　　　　　　　　　ある日の早朝。
　　　　　　　　　奥澤瑞希の部屋。
　　　　　　　　　ごく一般的な一人部屋。
　　　　　　　　　違うといえば、黒くて大きなグランドピアノがあること。
　　　　　　　　　そして、酷く散らかっていること。
　　　　　　　　　部屋の一角には、大量の花束や菓子折りの紙袋が置いてある。

　　　　　　　　　ドアチャイム。
　　　　　　　　　誰もいない。

　　　　　　　　　ガチャガチャと物音がした後、草柳凛が現れる。
　　　　　　　　　室内に誰もいないのを見て一つ息を吐き、部屋の電気を点ける。
　　　　　　　　　コートを脱いで、軽く部屋を片付ける。
　　　　　　　　　その時、電話線が抜かれていることに気付く。
　　　　　　　　　凛、少し迷うが、抜けたままにしておく。
　　　　　　　　　一通り終えると、ソファに座ってくつろぐ。
　　　　　　　　　テレビはないので、その辺に積んである音楽雑誌を開いて読む。

　　　　　　　　　そのうち、部屋の主が帰ってくる。
　　　　　　　　　瑞希が姿を現す。

凛　　　　どこに行っていたんですか？
瑞希　　　･･･何してるの？
凛　　　　こっちが質問してるの。
瑞希　　　（溜息）･･･
凛　　　　また徘徊してたのね？
瑞希　　　悪い？
凛　　　　悪くはないけど危ないじゃない。
　　　　　夜は家にいなさいって、何回言ったらわかるの？
瑞希　　　どうして？
凛　　　　万が一何かあったら･･･
瑞希　　　家にいるほうが危ない。
凛　　　　一晩中歩いてたの？
瑞希　　　正しくは、気が付いたら朝だった、かな。
凛　　　　馬鹿。
瑞希　　　かもしれない。
凛　　　　風邪ひくわよ？　最近寒くなったし。
瑞希　　　そしたらずっと寝ていられるから。

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