再来の贖罪主
登場人物
慈助(じすけ、父)…怠け者・臆病者・でも多分妻より普通の人間
富(とみ、母)…夫を尻に敷いてる系のしっかり者の妻・狂戦士
之(ゆき、娘)…無垢な幼子
金作(きんさく、隣人・夫)…陽気・水伃とはバカップル
水伃(みよ、隣人・妻)…内気・金作とはバカップル
翅(はね、慈助の姉)…無愛想ではない一匹狼
岩村源兵衛(いわむらげんべえ、一揆軍の武士)…歴戦の兵
益田四郎(ますだしろう、一揆の指導者)…聖者・どうでも良いけど洗礼名はFrancisco
松平信綱(まつだいらのぶつな、幕府軍指揮官)…将軍徳川家光の忠臣
語り部Ⅰ…現代人
語り部Ⅱ…現代人
prologue. 陰を負った者
声 嘗て、イエスは十字架に掛けられ死んだ。
声 全ての人間の根本的に持つ罪を纏めて肩代わりしたのだ。
声 いわゆる「贖罪」である。
声 しかし、人の犯す罪がそれだけで足りるだろうか?
声 故に彼は肉体を得た。
声 彼は全ての者を照らした。
声 そんなことはあり得ない。
声 光が当たれば必ず陰が生まれる。
声 彼は全ての陰を心の内に引き受けた。
声 そして心を固く閉ざした。
声 彼こそ天命の子。
声 再来の贖罪主(さいらいのしょくざいしゅ)!
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i. 立志
語り部Ⅰ 日本においてキリスト教は、一五四九年の伝来以来、スペインやポルトガルの支援を受け海を渡った宣教師達による布教で数多くの信徒を生みました。
語り部Ⅱ しかし、江戸時代となった一六一三年、当時の幕府は、日本征服というスペインやポルトガルの隠れた意図を警戒したことなどの理由から、人々がキリスト教を信仰することを全国的に禁じる禁教令を発布しました。
語り部Ⅰ そして時は流れます。24年後の一六三七年。第3代将軍家光の時代。禁教令が出されたのも今や遠い昔の話…。
語り部Ⅱ 物語は、そんな時代の、現在の長崎県にあたる肥前国、その島原地方のとある村で、今産声を上げます。
慈助 ああー、骨が折れるー。
富 あんた!
慈助 はいいっ!
慈助 ふう…。
富 ちょっと、何休んでんの?
慈助 は…い、言わせてもらうけどなあ!
富 急に何?
慈助 …お、俺らが汗水垂らしてここまで育て上げたこの米がどんだけ手元に残ると思ってんだ!ただでさえ年貢が馬鹿重えのに今年は凶作だあ?ふざけんなよな!あーもうやってらんねえ!
富 どんだけ手元に残ると思ってんだ、ね。
慈助 ああそうさ。
富 …それが分かってんならちょっとでも手元に残るようにさっさと働けこの馬鹿夫!
慈助 仰る通りですごめんなさい。
富 大体「俺ら」ってのが気に食わないね。汗水垂らしてんのは9割型私。あんたなんて垂れるのはいつだって汗じゃなく文句じゃないか。
慈助 …う…おんぎゃあー!
富 産声上げてんじゃないよ。はい、肉体年齢25歳はさっさと働く!(強引に慈助の腕を掴む。)
慈助 あー骨が折れる!
富 仕事に折ってたはずの骨なら今折ったって良いよなあ?
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