忘れ薬
忘れ薬
人物
田中明美(25)
鈴木美玲(25)
笹田次郎(30)
時田美智子(25)(声のみ)
〇喫茶店・テーブル席
田中明美(25)、カップのコーヒーを前に椅子に座っている。
鈴木美玲(25)、向き合って座る。
美玲「もう、ムカつく!」
明美「美智子のこと?」
美玲「そう! 一回誘わなかっただけで『仲間外れにされた』とか怒るんだから」
明美「あの人、そういうところあるよね」
美玲「あっちは私のこと誘ったりしないくせにさ。お世辞言ってくれる人ばっかり引き連れて」
明美、笑みを浮かべたまま瓶を渡す。
明美「これ飲んでみる? 飲むとね、嫌な記憶だけふわっと消えるの」
美玲「なにこれ……薬?」
明美「忘れ薬って言うの。ひと粒でいいのよ」
美玲、小瓶から粒を取り出して口に入れる。
少し間をおいて、ため息をつく。
美玲「あれ、私今何の話してたんだっけ」
明美、微笑む。
明美「さあ。忘れたなら大したことじゃないんじゃない?」
小瓶を振る朱美。
美玲「あ、そうか。それ飲んだんだ。なんか気分が楽になった。ありがとうね」
美玲、肩を回す。
〇喫茶店・テーブル席
静かな音楽が流れる。
明美、カップのコーヒーをゆっくりと口に運んでいる。
テーブルにスマートフォンが置かれている。
スマートフォンが震える。明美、取る。
明美「はい」
美玲の声「ねえ、美智子、私のこと何か言ってなかった?」
明美「ううん。なんで?」
美玲の声「あいつ私の悪口みんなに言いふらしてるらしいのよ。私何も悪い事してないのに」
明美「イライラしてるね。じゃあまた欲しい? 忘れ薬」
美玲の声「いいの?」
明美「もちろん。ただし今度は3粒で100円ね」
美玲の声「お金とるの? まあいいや。今から取りに行くね」
明美、スマートフォンを置き、残ったコーヒーを飲み干す。
○田中家・玄関・内(夕)
チャイムの音。
明美、玄関ドアを開ける。美玲が立っている。
美玲「あれある?」
明美、美玲に封筒を渡す。
美玲「はい。10粒で1万円ね」
美玲、封筒を受け取り、明美に1万円を渡す。
美玲「助かるわ。もう最近嫌なことが多くて」
明美「そっか」
明美、俯く。
美玲「どうかした?」
明美「何でもない。ちょっとつらい事があってね」
美玲「忘れ薬飲めばいいのに。じゃあね」
美玲、帰っていく。
明美、封筒を見つめる。
明美「ごめんね」
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