説明おじさん
説明おじさん
人物
田中昭雄(35)説明おじさん
今井美奈(20)大学生
三島徹(20)大学生
〇大学構内・ベンチ
ベンチに三島徹(20)が緊張した面持ちで座っている。
隣に田中昭雄(35)、落ち着いた表情で座る。
隣のベンチに座る今井美奈(20)がスマホをいじっている。
三島、田中の袖をつかみ、顔を伏せて小声でささやく。
田中、うなずき、美奈のほうへ声をかける。
田中「やあ、今井さん。今日の授業、どうだった?」
美奈、顔を上げる。田中を見つめ、不思議そうな顔をする。
美奈「え……あの、えっと……どちらさま?」
田中「ああ、これは失礼。私こういう者です」
田中、名刺を渡す。
名刺に『説明おじさん 田中昭雄』と書かれている。
美奈、戸惑いながらも少し笑う。
美奈「説明……おじさん?」
田中、穏やかにうなずく。
田中「人の気持ちを代わりにお伝すえるのが仕事です。こちらの三島さんがあ
なたとお話したいそうで」
三島、恥ずかしそうに目をそらす。
三島「(小声)趣味、聞いてみて」
田中、うなずいて美奈に向き直る。
田中「今井さん、もしよかったら趣味とか教えてもらえますか?」
美奈「趣味? ……まあ映画は好きですけど」
三島、こくんとうなずきつつ、戸惑った顔で田中の袖を引く。
三島(小声)「……映画、あんまり詳しくないから、うまく返して」
田中、すぐに笑顔を作る。
田中「いいですね。私も映画好きですよ。最近だと『月と嘘』っていうドキュ
メンタリー、観ました?」
美奈「えっ!それ、私も観ました。あれ、すごく考えさせられた!」
美奈、声を弾ませて笑顔を見せる。
美奈「映画館の近くに、小さな喫茶店があるの知ってます? 『白い月』って
いうところ」
田中「ああ、あそこ。カウンターの木が古くて落ち着く店ですね。メニューの『白月プリン』、わりと評判なんですよ」
美奈「え、食べたことあるんですか?」
田中「あります。仕事柄、いろんな人の話を聞きますから。それに私、甘いも
のに目がなくて」
美奈「私もです」
美奈が小さく笑う。
三島は隣で小さく縮こまりながら聞いている。
美奈「田中さん。なんか、話してると落ち着く」
田中「私もです。話していると元気をもらえる気がします」
田中も少し照れたように微笑む。
三島、視線を落とし、拳を握る。
三島「……ちょっと待ってください」
田中と美奈、三島を見やる。
三島「それ………俺が言いたかったことなんです。なのに全部、田中さんが
……」
田中、困ったように黙る。
美奈はしばらく三島を見つめてから、田中に顔を向ける。
美奈「ねえ田中さん。私の気持ち、そこの人に代わりに伝えてくれますか」
田中、少し戸惑いながらも、うなずく。
美奈「『私は自分の気持ちを自分で伝えられない意気地なしは嫌いです』。そう
伝えてください」
田中、三島に、
田中「……だそうです」
静寂。
美奈、田中の腕を軽く引く。
美奈「田中さん、喫茶店行きません?」
田中、一瞬ためらうが、立ち上がってうなずく。
2人は並んで歩き出す。
三島、ベンチに残される。
(終わり)
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