「道」 
〈登場人物〉
A 少女

車の行き交う音が鳴っている。
明転。
A、板付きで明転。しゃがんでいる。

A「1、2、3、4…これで5台目。ほら言ったでしょう?ピンクの車は滅多に通らないのだって。5台目が通るまでにすごく時間がかかったもの。」

A、隣に置いてある鞄に向かって話しかける。

A「何分かかったかって?そんなことわからないわ。何度も言ったはずよ。もう忘れてしまったの?この道を歩いている間に時計は落としてしまったって。あんなにパニックになっていた私を落ち着かせたのは、貴方だったじゃない。」

A、   立ち上がり、スカートのポケットの部分を2回叩く。
鞄を一度睨みつけて、手に持つ。

A「少なくとも私のお腹から一人で合奏できるぐらいの音色が聞こえるぐらいまでは時間がかかったの。さて、これで私の勝ちよ。報酬を貰おうかしら。抵抗したって無駄よ。これは約束なのだから。黄色の方がピンクよりもメジャーだったの。」

A、   鞄の鍵を開けて中を覗き込む。

A「あら、貴方、パン一つしか持っていないの?全く、それでよく賭け事をしようと思ったわね。負けた時のこと、考えていなかったのかしら。…私?私は考えていたわよ。負けたら貴方にあげるもののこと。嘘なんかついていないわ。」

A、   進んできた道を指差す。

A「よく考えてごらんなさいよ。あそこからここまで貴方を連れてきたのは誰かしら?知らん顔しても逃げられないわ。ちゃんとここまで歩いてきた証に、少しずつパンのかけらを落としてきたのだから。自分のそのパンを食べればいいなんて、ちゃんと最後までお話を聞いてちょうだい、せっかちさん。このパンには毒がジャムみたいにたっぷり塗ってあるの。たとえ鳥さんがこれを食べても。彼らはその場で眠ってしまう。私は無知で可愛いヘンゼルとグレーテルじゃないの。…残酷って、失礼ね、私は殺してなんかいないわ。あまりにも可哀想だもの。」

A、   ポケットからパンのかけらを取り出し、道に置く。

A「さて、ここまでお話ししたのだから観念しなさい。…もう、わがままなんだから。貴方は昔からそう。わかった、わかったわよ。半分で許してあげる。だからそんなに喚かないでくれる?」

A、   パンを半分に割って片方は鞄にしまう。

A「これだから私は貴方と遊びたくないの。結局、見えない先の先に何があるのかも教えてくれないし。私はこれでも貴方を信用しているのよ。わかっているの?…すぐにご機嫌になっちゃって。早く行きましょう?もう車も通らなくなってしまったわ。」

割ったもう片方を食べながら歩き始めるが、だんだんと足取りが重くなる。

A「ちょっと待ってくれる?私…だんだんと眠くなってきたわ。少し休憩しましょう。いいでしょう?こんなに暗くなってきたのだから。少しぐらい遅れても文句は言えないはずよ。」

A、   鞄を抱いたまましゃがみ、横になる。
数秒暗転後明転、Aはそのまま。

A「本当にノロマなんだから。私は嫌よ。ずっとここにいるのは。」

A、立ち上がる。

A「ほら!あそこに綺麗なお花が咲いているわ!今度は先に20本お花を見つけた方が勝ちにしましょう?私はパンジーが好きなの。だからパンジーにするわ。貴方は?…なんでもいいなんて言わないでちょうだい。カタバミ?そんなお花、私、知らないわ。自分で探してね。それよりも、何色のパンジーが可愛いかしら。やっぱり定番の黄色?でも普通すぎるわ。紫や白ぐらいレアなものの方が見つけた時嬉しいわよね。…あれがカタバミ?もう!またズルしているんじゃないでしょうね!」

A、走ってハケ。
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