馬に蹴られて死んでしまえ!
「馬に蹴られて死んでしまえ!」

登場人物

水束林太郎(みずつかりんたろう):大学の文学研究会の部長。部長だが部員は五人しかおらず、内3人は幽霊部員のため、肩書きだけは立派。今まで彼女どころか女友達すらろくにおらず、陰々鬱々とした大学生活を送っている。

梶井基也(かじいもとや):水束の小学校からの友人。水束に泣きつかれ、文学研究会に入ったが、本人は全く文学作品に興味がない。彼女がおりそのことでよく水束に当たられる。

今夏愛(いまなつあい):新入生。水束に負けず劣らず文学作品を愛している。しかし、今まで中々語り合えるひとがいなかったため、文学研究会に入ることを決意。



シーン1

水束:「夏の祭りというものはなんとも無駄が多いものだ。
    わざわざ暑い中祭りの準備を行い、わざわざ暑い中祭りに興じる。
    なんとも無駄なものだと思わないかね。
    この導入で君たちは、私を大層ひねくれた傾奇者だと思うかもしれない。
    だが諸君、考えても見てほしい。我々客は何かしらの娯楽を求め祭りに赴くそれ   
    はなやかな飾りかもしれないし、高い癖に大してうまくもない屋台の食事かもし   
    れない。
    出会いを求め繰り出す者もいるだろう。特に若者であればその傾向は顕著かもし
    れない。
    右を向けば軟派、左を向けば軟派。祭りという非日常で個人的にはしゃぐ分には   
    大変結構。だが公衆の面前で、全く無関係な我々に醜態を晒すのは勘弁してもら 
    いたいものである。
    このような事にしか情熱を注げないとは、なんたる体たらくか」。
    大体、勉学が本分である我々大学生が恋愛などにうつつをぬかし、勉学をおろそ
    かにするなど…。」
梶井:「はいはい。彼女持ちへの僻みはそれくらいにしろよー。今夏さん困ってるだ  
    ろ。」
水束:「…っ。うるさいぞ梶井。」
 梶井、肩をすくめる。
水束:「そもそもだな…。」
今夏:「…っふふ。」
水束:「…。」
梶井:「…。」
 笑い声が部室に響く。水束と山田は思わず声のする方へ目をやる。
今夏:「あっ、すみません、どうぞわたしのことは気にせずにお話を…っふふふ」
 話している途中でこらえきれなくなったのか、再び今夏笑い出す。
水束:「…何か、何か言いたいことでもあるのかね、今夏どの」
 水束、若干の気まずさを誤魔化すように、声をかける。
今夏:「あっ、いえ、すみません突然…っふふふ。ただ、お二人があまりにも必死に議論  
    されているので。」
梶井:「議論なんてそんなたいしたもんじゃないよ。これはこいつの病気みたいなもん
    だ。」
水束:「なんだと梶井。お前言わせておけば、まあ好き勝手言ってくれるじゃないか。だ
    いたいお前の様に、恋愛にうつつを抜かしているような馬鹿に病気などとは言わ  
    れたくない。」
梶井:「まあ、そう言うなよ、金之助。俺たちたけうまの友だろ」
水束:「それを言うなら“ちくば“だ。ふんっ、何が竹馬の友だ。たまたま家が隣同士
    で、たまたま親同士の中がよかっただけの腐れ縁だろう。」
梶井:「そんな連れないこというなよ。俺はこんなにもお前のことを思っているというの
    に。この文学研究会に入ったのだって、金之助が、廃部になるから助けてくれ 
    ~、って泣きながらいうから入部してやったのに。」
水束:「っぐ、なっ泣いてなどおらんわ。」
梶井:「まったく、泣き虫なのは昔から変わらないなソーセキは。」
今夏:「..きんのすけ?先輩さっき自己紹介でお名前は水束っていってませんでしたっ
    け。」
梶井:「いかにも、私の名前は水束 林太郎。この身に二人の文豪を宿す令和の傑物とは
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