アガペー:agape
「アガペー:agape」
Yuki Shohei
ノア:ソフィーにどんなことがあっても、彼女にノアは全てを捧げる事を誓った男性。
ソフィー:ノアの事を愛し生きることも死ぬことも彼とともにありたいと願う女性。
アイザック:あらゆる科学を理解する天才だが、禁忌を犯し学会から追放された科学者。
プロローグ
アイザック
『――今この瞬間、私たちは眠りながら夢を見ているのか、それとも起きて話をしているのか、誰が証明できるというのだろう。 プラトン』
ノアN
遠い遠い昔から、ここまで時間がたった未来であっても、貧富の差はとても激しい。しかし見事と言わざるを得ない都市計画はその地区の中心から広がって。同じくして貧困の度合いもまたその中心部から広がる。一番端の地区では麻薬を売るか、身体を売る事でしか生活手段はない。そんなスラム地帯である。
ソフィーN
私は彼の事を愛していた。彼のためなら、命をすり減らしてもかまわないと誓った。私の左手の薬指には、誓いのリングは細く。ただただ真っ暗な光化学スモッグの下。汚いネオンの明かりだけを反射していた。
ノアN
生活の範囲も行き来できる場所も。ほとんど生まれた時に決まってしまう。そんな世界であった。それでも僕は。こんな世界でも彼女を愛し、幸せであって欲しかった。そうしなければ自分の価値は消失すると考えていた。
ソフィーN
私は彼の事を愛しているわ。だって彼は彼のすべてを私にくれたのだもの。私の人生を差し出すにあたって。彼は自分の人生をすべてくれる事。それだけで私はノアのためにならなんだってできるのです。私には彼のような人間が必要で、彼もまた私が必要に違いない。お互い言わずともわかっていた。
ノアN
彼女と僕がお互いを大切に思っている事について、口にする必要などないという事を感じていた。その責務を果たすのに必要な仕事にありつくことはできた。しかしその重労働は何百年も前から変わっていない。重たい荷物をただただ進化しただけの重機で運び、腰を悪くし肺を悪くする。ここでの生活が嫌なわけじゃない。僕が彼女のためにしてやれるのは日銭を稼ぐこの仕事と、一緒に過ごす事だけだった。
ソフィーN
ああ、ノアよ。どうか。幸せに。ノアの幸せは私の幸せで。どんな不自由にも私は耐える事ができて。それでも私の身体は、スラムの近くにあるこの地域では規制なんて成立しない。規制なんてものはここまで届かないと言わんばかりの光化学スモッグや、環境汚染で日々と身体の違和感は増すばかり。私は今の生活を守るために、ばれないようにばれないように。心配をかけまいと努めて明るく日々を過ごしていた。
転換1
ノア「ただいま。」
ソフィー「おかえりなさい。ノア。今日もご苦労様。」
ノア「今日はね、ちょっとしたサプライズだよ!仕事の時にこんなのを見つけたんだ。ほら!」
ソフィー「あら、オルゴール!でもその前に今日はシチューだからあったかくて風味が飛ばないうちに食べない?」
ノア「うん。それもそうだね。さっき少し鳴らしてみたけど、壊れてはいないみたいだよ。音楽なんて久しぶりだね。ああ、楽しみだ!」
ソフィー「まぁノアったら。子供みたいにはしゃいじゃって。準備はできてるのよ?早く食卓へ。どうぞ。」
ノア「ああ、ごめん、ごめん。今荷物を下ろすから待っていてね。シチューかぁ、確かにいい香りだ。気づかなかった。」
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