幸せの壺
幸せの壺





店員

舞台は喫茶店。
蝉の鳴き声。入店したばかりの男と女が席に座り、帽子をとる、上着を脱ぐなどしている。女は大きなカバンを持っている。

女    暑いですね。
男    えぇ、暑いですね。
女    まだまだこの暑さが続くそうで。あ。

     女、眼の前で手を叩く。

男    いましたか?
女    はい。しとめました。
男    (ティッシュを差し出しながら)季節ですね。参っちゃいます。
女    本当ですね。
男    自分は普段、電車通勤なんですが。
女    えぇ。
男    駅のホームが地獄の様でね、車通勤も考え始めました。
女    車、お持ちなんですか?
男    えぇ、一応。
女    それなのに電車で?
男    ペーパーなんですよ。お恥ずかしいお話なんですがね。
女    いえ、電車やバスも便利ですからね。
男    そうなんですよ。車に乗らなくてもそんなに困らなくて。
女    それなら仕方がないですよ。

店員が登場。コップを2つ持ってくる。

店員   こちら、お冷でございます。
男    どうも。
女    どうも。
店員   只今メニューをお持ちしますので、少々お待ちください。

店員が退場。

女    あ。

     女、眼の前で手を叩く。

男    またいましたか。
女    しとめました。(先程もらったティッシュで拭く)
男    季節ですね。
女    あの、本日はお時間いただき、ありがとうございます。
男    いえ、お構いなく。
女    それで、お話というのもですね。
男    (食いつくように)買います。
女    え?
男    え?

     間。

男    あ、や、すみません。僕としたことが、どうも勘違いをしていたようです。
女    ええと。
男    いやほんとすみません。何でもないです。
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