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ケントの花

Ａ　　　マリナ

Ｂ　　　アッちゃん

Ｃ　　　父（その他）

Ｄ　　　母（その他）

＃１
【家】

Ａ　　　どーも、はじめまして。私、マリナって言います。で、これはバケツと、リンゴです。

　　　　　　　　バケツを置く。

Ａ　　　えー、このリンゴは私が今、手で掴んで持っています。だから、この高さの「ここ」にあります。じゃあ、私が手を開いてリンゴを放したら。リンゴはどうなるでしょうか。じゃ、実際にやってみます。３、２、１、ハイ。

　　　　　　　　Ａが手を開いてリンゴを放すが、リンゴは浮いて「ここ」に留まっている。

Ａ　　　はーい、そうですねー。私が手を開いても、リンゴはこのまま「ここ」に留まり続けるんですねー。──つまらない手品です。あの、普通はミカンでやるやつ……。そう、これは手品なので、現実ではこうはなりません。皆さんもご存知のとおり、手を開いてリンゴを放せば──

　　　　　　　　Ａがリンゴを放すと、リンゴはバケツの中に落ちて鈍い音を立てる。

Ａ　　　そう、リンゴは「下」に落ちる。当たり前のこと。でも、リンゴはただ「下」に落ちているっていうわけじゃ、ありません。リンゴは、私たちの足元。地球に引っ張られて、地球にぶつかっているんです。それだけじゃありません。地球もまた、ほんのわずか、リンゴに引っ張られて、リンゴにぶつかる。今では理科の授業でも習う、当たり前のことを発見した偉人がいます。

　　　　　　　　Ｃ、出てくる。

Ａ　　　アイザック・ニュートン。リンゴが木から落ちるのを見て、発見したなんて逸話もある、万有引力。この宇宙では、すべてのものは、互いに引き寄せあい、そして巡りめぐっていると──
Ｃ　　　マリナ、なにやってんだ？リビングにバケツなんか持ち出して。
Ａ　　　突然ですが、ここで私の家族を紹介します。こちら、私のお父さん。
Ｃ　　　ちょっと、バケツは片付けなさい。
Ａ　　　 ──なんで？
Ｃ　　　バケツを片付けるのに理由はいらないだろう。
Ａ　　　 ──この時。私は中学一年。
Ｃ　　　マリナ。大事な話があるんだ。
Ａ　　　男手一つで育ててくれたとはいえ、私はお父さんに……
Ｃ　　　お父さん、な。
Ａ　　　父に。思春期ならではの……
Ｃ　　　マリナに会って欲しい人がいるんだ。
Ａ　　　こう、なんとも言えない嫌悪感を──え、なに急に。
Ｃ　　　お付き合いをしている方がいる。
Ａ　　　え。
Ｃ　　　結婚を、前提として。
Ａ　　　ちょっと待ってよ。
Ｃ　　　今日、家に呼んでいる。
Ａ　　　今日？
Ｃ　　　というか、もう着いてる。
Ａ　　　え？
Ｃ　　　その扉の裏にいる。
Ａ　　　は？
Ｃ　　　今、呼んでくるから。

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