Traveller
暗転。
幕が閉じている。
茉莉花、幕の間から出てくる。
スポットライトが当たる。(茉莉花の動きに合わせて動かす)
茉莉花「ねえ、お父さん、お母さん。あの時、言ってくれたよね。立って歩けなくても、笑ってくれなくても、私たちは家族だって。泣きながら言ってくれたよね。あなたもいつか、一緒に生きていたいと思える人ができるって」
幕が開く。
茉莉花、舞台の中心へ来て、舞台の幕が開く音を聞きながら客席に向けて言う。
茉莉花「それならどうして、こんなふうに、私をひとりぼっちにしたの?」
茉莉花、幕の開いた後ろを振り向き、退場する。
明転。
チェック、電話に出る。
チェック「はい、こちら現世監査委員、天使のチェックです。はい……はい、承知いたしました。すぐに向かいます」
チェック「まったく、こんな時まで彼は遅刻ですか。一体何をしているのやら……だいたい、遅刻の連絡も遅すぎます。天国でバカンスなんて、人間が二週間で飽きるものを20年続けるなんて、馬鹿げている。どうせなら、天国で働いている私にも休暇が欲しいくらいです!私が引き続き働いているのに、どうして彼だけ、」
幕が開く。(「全く、何をしているのやら…」らへんから)
チェックの背後にマーズが立つ。(「休暇が欲しいくらいです!」らへん)
マーズ「よう、相棒。元気そうで何よりだな」
チェック、驚いて硬直。顔をしかめる。
マーズ、満面の笑顔で手を振る。
チェック「……あなたこそ。最後に仕事した19年と10ヶ月、それと8日と13時間52分26秒前から、全く変わっていないようで安心しました」
マーズ「フウ!秒数まで覚えてんのか、マイフレンド。光栄だぜ」
チェック「思ってもいない軽口を叩かないでください。南の島は楽しめたようで何より。ですが、切り替えが出来ない悪魔は豚も同然です。口を慎みなさい」
マーズ「あはは。相変わらずつれねえなあ、チェック」
チェック、マーズの姿を上から下まで見てツンとする。
チェック「ふん。もう仕事のことなんてすっかり忘れてしまったのでしょう。随分色ボケしたようですね。この先が心配ですよ」
マーズ「そいつは心外だ。俺を見くびってもらっちゃ困る、『完全無欠のマーズ様』はロングラン大ヒット上映中だ!あと200年は現役に違いねえよ!」
チェック「へえ、それはそれは。随分と、悪趣味な映画があるんですね」
マーズ「その悪趣味な映画に、1000年も付き合ったのはどこのどいつだ?」
チェック、驚いたようにマーズの方を向く。
マーズ、自信たっぷりに笑い、チェックの顔を覗き込む。
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