ティラミスは劇薬か媚薬か おまけの短編その1
寝酒(カクテル)は花魁の味
寝酒(カクテル)は花魁の味。

「そうそう変わらないもんだな、君の趣味」
 暖炉のそばで、美鶴が裸のままポールモールを吸っていた。そのからだは破廉恥(はれんち)というより、大昔の彫刻作品のような優美なエロティシズムを感じさせる。そこへ薫が持ってきたビンを置いて、美鶴の肩にローブをかける。
「前から気になってたんだが、一番のお気に入りはマルゴーなのかい?」
「どうかしら……あなたはどうなの?浮気者のクセに、お酒に限ってはそのジンジャービール一筋だったりして」
 邪魔の入らない部屋に、グラスの当たる音が心地よく響く。
「さぁてどうかな……違うって言ったら、妬いてくれるかい?」
薫はからかったつもりだったが、その意図を知ってか知らずか……美鶴はこれをいなそうとする。
「薫、チェイサー(次)は何にする?」
 美鶴の目は揺れる炎の妖艶(ようえん)な光を反射している。
「……キティだ……フッ、知ってるクセに。それでお返事は?」
 暗い部屋の中、ローブから零(こぼ)れた美鶴の肌が、暖炉の火のように照っている。美鶴のからだには、夜でも冷えぬワインが血潮のように満たされている。
「薫……?」
 不意に美鶴は煙草の煙を薫の顔に吹きかける。
「ケホッケホッ、な、何を…………」
 美鶴が身を寄せてきたはずみで、わきに置いたグラスたちが倒れてしまった。その零れた酒たちは床の上でゆっくりと混ざっていった。

簡易説明
 ・シャトーマルゴー……エレガントなフルボディワイン。「ワインの女王」「ボルドーの宝石」とも言われる美酒。
 ・ジンジャービール……刺激と辛味が強いジンジャーエールのようなもの。ビールと言ってもアルコールを含むもの、そうでないものが         ある。
 ・キティ     ……赤ワインとジンジャーエールを“混ぜた”カクテル酒��
1/1

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム