傘と侍
漢字編
傘と侍

侍・・・寺子屋の先生。もともとは武士
後藤・・・寺子屋の生徒、賢い
曙・・・寺子屋の生徒、メタい

    侍、一人語り

侍  数々の改革が行われるも、未だ困窮の中に居た江戸の民。ほのかに幕府の衰退が見える中、ある所に男がいた。男は侍だった。未来を見据える眼力と主君へ全てを尽くす忠心を兼ね備えていた。そういう、所謂本物の侍だった。

侍  拙者の事である。

侍  この度、年のこともあり、侍を引退した。そして子供たちのために寺子屋を開いた。ありがたいことに、初日にもかかわらず二人も入ってくれた。後藤君と曙君という子だ。これからのこの国を作るのは、侍でも将軍でもない・・・・・・

侍  天皇だ!

侍  失礼しました。尊王思想が出てしまいました。これはいけない

侍  むむ、そこで飯を食っている君。そうだ君だ。変わったものを食べているね

侍  胡坐をかいて、これは牛鍋かな。なるほど、新しい流行を作ろうとしているのか。そうかそうか、いいじゃないか。いやぁ、しかし

侍  むむむ!なぜだろう!どこからか西洋の香りがするなぁ!夷敵を打ち払え!

侍  失礼しました。攘夷思想が出てしまいました

侍  先ほども申した通り、最近随分な年になりましてね。言っていい事といけない事の区別がつかなくなってまいりまして、拙者に残された時間は、もう少ないのかもしれませんな

侍  人間五十年~

侍  失礼しました。敦盛が出てしまいました

侍  実はね、今日が初回の授業日なんですよ。どうしたもんかなぁと思いまして。内容といえば、読み書きそろばんなんてのが、まぁ主流ではあるんですが。初日からいきなりそれはねぇ。もっと生活に根付いた、興味の対象であってほしいものなんですよ

侍  そうだ!漢字の授業なんてどうだろう。子供たちの興味も引きやすいだろうしなぁ。荒くれものがいたとしても、きっと受ける

侍  そうだ、ゆくゆくは侍の経験を活かして、命の授業ができたら嬉しいなあ。命!いいなぁ。松の下でやろう!命!

    寺子屋到着。授業を始める

侍  さて、今日の授業を始めます!日直の人は号令を

侍  ・・・・・・まだ日直がいないんだったね

侍  ここは古ぼけた寺子屋。いにしえぼけた寺子屋。もはや終末期寺子屋。雨漏りがしそう。でもしない。日ノ本の建築に感謝感激雨台風。嵐が来たらさすがに壊れちゃう。法隆寺万歳!東大寺万歳!もっと大きな建物を作ろう。男なら、でっかく夢を持て!男なら!そうだ、男なら・・・・・・まぁ、今の時代なら声を大にして言ってもいいだろう。男ならぁ!そんなこともいってもいい

侍  皆さんよいですか?まずは、そうですね。傘という文字にしましょう。ん?なぜ傘なのかって?なんとなく頭にあったんです

侍  さぁ、後藤君。この傘という漢字。どういう意味だと思いますか?なになに?傘のなかに四人が入っていて、助け合っている姿。なるほど、でも、四人なんて入れるかなぁ?なになに?

侍  概数?難しい言葉をしっているね。

侍  よし、他の人に振ってみよう。今日の妻の小言の数は、金使い、女癖、不景気・・・・・・あと一つ、なんだったっけな。さっきまで頭にはあったのに。まぁ、数は四つだ。だから、前から四番目にしようかな。まぁ、二人しかいないんだから、どうでもいいか

侍  曙君。君はどう思うかな?なになに?コウモリ傘

侍  いけない!曙君ダメだ!忘れるな!ここは江戸の寺子屋だ!和傘と言いなさい!黒船は来ていないぞ!文明開化の足音はまだまだ先だ!

侍  なになに?その距離約五十キロメートル?

侍  いけない!せめて五十里といいなさい!曙君!

侍  そろそろ答えを言おうか。これはね、傘に人が入っている様子。後藤君正解だ

侍  ん?どうして先生は寺子屋を始めたのか?やっぱり気になる?そうだね。話してあげよう

侍  先生はね、もとはお侍だったんだ。侍という字を考えてごらん。人が寺にいると書くんだ。これはね、もともとは己が切った人を供養するために寺に入ったのが語源なんだ。先生も入ろうとしたんだけれどもね、寺に入るためには妻と別れなきゃいけないんだ。それは嫌でね。だから、寺子屋を始めた。最初の授業に、この傘を選んだのも、ひとえに皆には沢山の人で一緒の傘に入るような精神性を持ってもらいたかったからなんだ。これから一緒に頑張っていこうね

侍  子供たちが感心した目で私の事を見ている。昨日徹夜した甲斐があった。嘘も方便というやつさ。口八丁、共に手八丁。

侍  さて、ここまでお付き合いいただいた読者、および観客諸君にはひとつ事実を打ち明けようと思う。

侍  なぜ私が最初の一文字を傘にしたか。それを説明しよう。

侍  昨日壊してしまって、妻に買ってこいと怒られたのだ。これが忘れていた妻からの小言の四つ目。本日の授業はこれまで、それでは
1/2

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム