アイディアの王国
登場人物
佐倉くん ・・・ 使用人(女の子でもよいのかも)
U    ・・・ アパートの管理人。浦島博士。
西塚   ・・・ 書けない作家。天才。
黒沢   ・・・ 才能の原石。ハルさん。
刑部   ・・・ 警察
宮瑚田  ・・・ 警察


1.

暗い舞台に人。明かりがつく。
暗い表情の男がいる。

暴動、悲鳴、諦観。そうした音に包まれている。耳をふさぐ。
ふと、気付く。彼は、本を手に取る。一心不乱に何かを調べる。何かを書き写す。それは有機化合物のような何か。

U   おい、だれか! だれか! 早くこっちに来てくれ! これを見てくれ! これが完成すれば・・・人類はきっと平和に・・・。

誰かは、頷き、走り去る。
明転。

U   こうして・・・意識の研究が進んだ時代に、そのサイエンスフィクションのような解決策は生まれた。・・・生まれてしまった。

U、はける。
佐倉、登場する。

佐倉   この国のことは隅から隅まで知っている。人々の無意識は共有されている。知ろうと思ったことは、それを見ている人から無意識を介して伝わってくる。だから、まだ、この国にぼくの知らない場所があることを知ったときには驚いた。その場所は、工場の煙に包まれた隣町の外れまで行って、その先に広がる見渡す限りの耕作地帯も何日かかけて通り抜けて、それでもなお自転車を飛ばしていくと、あるらしい。どこか古い洋館のようなそこに行けば、物語に出会えるという。

佐倉   物語なんてそんな貴重なもの、読んだことがなかった。すべてのアイディアは共有されてしまう。物語になる前に知ってしまう。だから、ぼくが、その洋館の存在を知った次の日には、もう家を飛び出していた。学校は夏休みで2カ月間の休みに入るところだったし、両親には、サマースクールがあるとかなんとか言って。飛び出した。

佐倉   こんこん。こんにちはー・・・。

返事は帰ってこない。

佐倉   いつの時代の建物なんだろ・・・。

そこに後ろから入ってくる青年(西塚)。

西塚   あ・・・。

佐倉   あ、あのっ。初めまして、ぼくは佐倉といいます。この場所のことを教えてほしくて。

と言っている間に、西塚は二階の自室へと入っていってしまう。
抱えていた書類から、落ちた紙切れを佐倉は拾う。

佐倉   あ・・・落としましたよ。えっと・・・「“わたしの代わりにたわしを置いていくの“」。・・・なんだろう?

物語世界が展開する。飛び出す絵本みたいなイメージで楽しんでやってください。
ばたん、と扉が開き、西塚が現れる。そして、堂々とした声で。

西塚   舞台は文明開化の様相。
刑部   女性が独りで生きていくのがまだ難しかったころ。
U   ところが、この旦那様ときたら、とんでもない人で。

佐倉   ・・・えっ!? 誰ですか?

宮瑚田   だから、私は決心しましたの。この家を、出ていくって。
U   でも、元の家にも帰れない。
宮瑚田   だって、帰ったら、お父様にもお母様にも迷惑が掛かってしまうわ!
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