ユダの末路
殺し屋シリーズ2部:4話
 夜の街。闇に棲まう住人たちが目覚め出す頃。
 華やかな娯楽に興じる享楽者たちの傍ら、確かな存在感を放つ裏の顔役「ベルトリオファミリー」。
 
 革張りのソファに座る火傷顔の男に側近らしき男が書類を指し示している。

マルコ:……以上がアガリの総額です。
マルコ:直近でファミリーの傘下になった組も計上してあります。
アッシュ:ご苦労様です。随分と儲かってるみたいですねぇ。
マルコ:二代目が大量に隠し持っていた新種のヤクも順調にさばけています。
マルコ:マニアックなバイヤーの間では高値で取引されているようですね。
アッシュ:はは、ヤクなんてさっさと金に換えた方が有益ですよ。
アッシュ:しかし、ボスの羽振りの良さはこういうカラクリだったんですね。
マルコ:ボスはあなたでしょう。
アッシュ:ああ、そうでした。
アッシュ:すみませんね、どうも呼ばれ慣れていないもので。
マルコ:いえ……。
アッシュ:そうだ。傘下の中に「殺し屋もどき」の連中がいたでしょ、確か。
アッシュ:殺しを請け負って、後々に法外な金を要求して粘着質にゆする……。
アッシュ:チンピラの真似事で稼いでるどうしようもない組がね。上手くやってるつもりなんですかねぇ。
マルコ:ああ、奴らに関しては……。
アッシュ:ちゃんと殺しましたか?
マルコ:えっ……。いや、別のシマからの傘下とはいえ、一応は身内ですし。
アッシュ:害虫駆除にも許可を出さないといけないんですか? 面倒ですねぇ。
マルコ:害虫……ですか。
アッシュ:ビジネスにおける「殺し」は信用で成り立っています。
アッシュ:利己的な殺しなんて筋が通りませんし、確執を生むだけですよ。
アッシュ:つまり利益も皆無。金食い虫は立派な害虫でしょう。
マルコ:しかし、ボス……。
アッシュ:まだ言わせます?
アッシュ:何なら僕がやってもいいですけど。

 目を伏せ、引き下がるマルコ。

マルコ:……わかりました。すぐに手配します。
アッシュ:わかってくれればいいんですよ。

 ソファに深く座り直すアッシュ。
 どこか上の空で外を眺める。

マルコ:浮かない顔ですね。
アッシュ:バレました?
アッシュ:ここのところちょっと退屈なんですよね。
アッシュ:やっぱり上であれこれ言うよりプレイヤーの方が向いてるのかな、僕は。
マルコ:殺し屋として、ですか。
アッシュ:ええ。最近よく思い出すんです。

 楽しそうに笑顔を浮かべるアッシュ。

アッシュ:あの頃は楽しかった。
アッシュ:三人組のお嬢さん方に最高峰の殺し屋……。
アッシュ:刺激的でしたよ……とても。
マルコ:……。
アッシュ:あ、でも「機械仕掛け」のお嬢さんは良いですね。
アッシュ:「不運(アンラック)」を退けたそうじゃないですか。
アッシュ:ちゃんと坊っちゃんを守り切ったわけだ。
アッシュ:はは……早くまたお相手したいなぁ。
マルコ:信用できるんですか、「不運(アンラック)」は。
アッシュ:殺し屋は信用で成り立ってるって言ったばかりでしょ。
アッシュ:過去のイザコザなんて大した問題じゃないんですよ。
アッシュ:すっかり「殺し屋」の顔になってましたよ、彼女も。
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