フォグナイトの狩人
殺し屋シリーズ2部:2話
 その夜、大都市には深い霧が覆っていた。
 人気のない路地裏で、暗がりに佇む女が目の前の男に語りかけている。

リグレット:あなた、神を信じますか?
リグレット:苦痛や絶望に足を取られた時、心に浮かぶ存在はありますか?
リグレット:人の子は等しくか弱い雛鳥です。
リグレット:誰もが安息と救いを求めています。
リグレット:この醜(みにく)い常世(とこよ)の街にこそ確かな導(しるべ)が必要です。

 優しく微笑み、目の前の男に視線を合わせる。

リグレット:ですが我々は、すべからく傲慢でした。
リグレット:文明の繁栄を笠(かさ)に着るうち、神の与える救いをないがしろにしてしまった。
リグレット:あたかも知恵の実を食し原初の罪を犯したアダムのように。
リグレット:おわかりですか? 皆、履き違えているのです。
リグレット:自らこそが全能たる「神」であると。

 立ち上がり、男を見下ろす。
 壁を背に頭を垂れた男は血を流しすでに事切れている。

リグレット:どれほどに哀れな生き物でしょうか。
リグレット:私の「後悔」は、あなたのような「模倣の神」にすがりつくしかなかったことです。
リグレット:ああ……忌々しい。忌々しいッ!

 女性が手にした巨大なブッチャーナイフで男の死体が何度も斬り刻まれていく。
 すでに原型を留めていない男の顔。

リグレット:……故に正さなければなりません。
リグレット:大いなる「変革」をもって、歪んだ常世(とこよ)を正しましょう。
リグレット:愛しております……私の神様。

 振り下ろされたナイフが死体の頭を割る。

 ――街の一角に佇む、とあるバーの店内。
 カウンターに並んで座り、語り合う二人の男。

ウィリアム:……それで、上手くやれてるのか?
クルム:何がよ? 仕事の話か?
ウィリアム:そっちは特段、心配してない。
ウィリアム:「エクスマキナ」とだよ。
クルム:ああー……。
ウィリアム:お前と関わった女はご多分に漏れず泣かされているからな。
クルム:馬鹿言え。女運が悪ィんだよ、俺は。
ウィリアム:ふッ、女の方も同じ台詞を吐いてるだろうな。

 顔をしかめ、手にしていたグラスを傾ける。

クルム:……まぁ、あの嬢ちゃんは涙なんかとは無縁かもな。
ウィリアム:へぇ?
クルム:名が体を表してる。「機械仕掛け」とはよく言ったもんだ。
クルム:泣くどころか笑顔のひとつも見たことねぇよ。
ウィリアム:噂通りってわけか。
クルム:銀(イン)の頼みとは言え、俺が子守りなんざすることになるとは……。
ウィリアム:「青天の霹靂」って言うんだったか? お前らの言葉で。
クルム:俺は韓国人(コリアン)だっつってんだろ。
クルム:……あいつも何を考えてんだか。
クルム:「あの子にはストッパーが必要なんだ」とか何とか、わけのわからんこと言いやがって……。
ウィリアム:「ストッパー」、か。
クルム:大体俺はなぁ、熟れた女が好みなんだ。
クルム:10……いや20年後だな、あの嬢ちゃんは。
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