変わらぬ世の恋物語
一ツ橋慎之介…現代の高校生。演劇部。男
佐々原…演劇部演出担当。歴史オタク。女/両
小夜…河合藩の姫様。女
水野結衣…父の跡を継いで、女ながらに武士になった。女(両)
美津…茶屋娘。女
晴継…将軍家の跡継ぎで、小夜姫の許嫁。男
椿…将軍家のくノ一。女(両)
その他、武士A、B、C。
※(両)は、いけなくはないけど、できればそのままが良いかな、と個人的に思っている配役、/両は、まあありかな、の配役です。
1.
[1-1]
 演劇部。スポットのみ明転。舞台中央に机があり、佐々原と慎之介が向かい合って座っている。佐々原は普通の制服、慎之介は侍装束。二人とも台本を持っている。
佐々原 それで、さっきのシーンの話なんだけど……。あんた、演技する気あった?
慎之介 えっ?
佐々原 幼稚園児の演劇かって言うくらい棒読みだったよね。あのシーン、結構大事なシーンなんだけど。あんな適当に演じてもらっちゃ困るなあ。
慎之介 俺はちゃんとやってましたよ。そんなに悪かったです?
佐々原 あっ、自覚なし?
慎之介 強いて言えば……あっ、声量とか?でも、そんなに言われるほどですかね~?
佐々原 悪かったよ。
慎之介 はあ。
佐々原 悪かったっつーか……まあ、演技は普通なんだけどさ。あんまり感情が乗ってないんだよ。ちゃんと登場人物の気持ち、理解できてる?
慎之介 いや、あんまり。
佐々原 でしょうね。
慎之介 だって、武士とか意味不明ですもん。よく分からない家柄とか、プライドに縛られてばっかりで。ここに出て来る将軍と姫様だって、最終的には良い感じになるとはいえ、初めの方障壁ばっかりですよね。演じてて、なんかもどかしいんっすよ。愛し合ってんなら、家とか気にしてないでとっととくっついちゃえばいいのに。
佐々原 (溜息)あんた、名前だけは武士っぽいのにね。一ツ橋慎之介なんて大層な名前のくせに、名前負けも甚だしいよ。
慎之介 じいちゃんがつけたんすよ。
佐々原 まあ、そうでしょうね……。
慎之介 で?もういいですか?佐々原先輩。
佐々原 言いたいことはまあ、全部言ったけど……。とりあえず、君が先に上げるべきなのは、演技力よりも読解力。そして、役を理解しようとする共感性だね。
慎之介 難しそうっすね。
佐々原 (立ち上がる)とりあえず、脚本を読みこめ。明日の練習までには改善されてることを祈るよ。
慎之介 はーい……。
佐々原が上手にはける。慎之介は台本をパラパラめくりながら、愚痴りだす。
慎之介 読解力に共感性の欠如か。さすが鬼演出の佐々原先輩。アドバイスが容赦ないなぁ……。そもそも何百年も昔の話を現代人が演じろって言うこと自体、無理だって言うのにさ。ま、タイムマシンで江戸時代に行けたりとかできたらいいかもしれないけど。
色々愚痴りながら、疲れた感じで机に台本を広げて置き、その上に突っ伏す。暗転。

2.
[2-1] 江戸の町。暗転中、フェードインでなんか江戸っぽい音楽を流しておく。明転と同時に消す。
上手側に慎之介が倒れており、それを結衣が覗き込んでいる。
結衣 おい、大丈夫か?おいってば!……?死んでは……いないか。呼吸は、してるしな。しかし、反応がない。おい、おーい!
慎之介 …うっさいなぁ、誰だよ……。って、う、うわぁ!!
結衣 (耳を塞ぐ)うるさいのはお前だ!ったく、一体、こんなところで何をしている。
慎之介 だ、誰?武士?でも、女?
結衣 ……何だ。女が武士じゃ何か悪いか。
慎之介 いや、別に…。っていうかここ……どこ?
結衣 江戸だ。
慎之介 え、江戸?徳川家康とかの、江戸?
結衣 無礼者!東照大権現様を呼び捨てにするな!
慎之介 す、すみません…。
結衣 まったく。一体、お前は何なのだ。同郷の情けと思い声を掛けたが、どうやら違うらしいな……。
慎之介 は?何の話だ?そもそも江戸って…俺は令和の人間だっつーの。
結衣 令和?そんな藩聞いてこともないな。
慎之介 あっ、藩じゃないっす。
結衣 …どうも容量を得ない。お前と話しているとそれだけで疲れるな……。
慎之介 それはこっちのセリフ……って、え?何、これもしかして、本当にタイムスリップ?
結衣 たいむすりっぷ?
慎之介 ああ、いや。何でもない。こっちの話。
結衣 左様か。
慎之介 ねえ、どうしてもよく分からないんだけど、やっぱりここは江戸なのか?
結衣 ああ。
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