愛ではなかったけれど
「愛ではなかったけれど」




登場人物
関 なつみ 高校二年生。
関 百合子 36歳 なつみを引き取って育てている。
神保しおり 高校二年生。なつみの友達。
神保美絵子 しおりの母親。
なつみの実の母 19歳
三歳時のなつみ(小柄な役者がいなければ、プロジェクターで投映した画像等でもよい。台詞は声のみ)
施設の女性(声のみ)

舞台を上手下手に分ける。

一場 往来

上手側のみ照明が点く。
街灯が点いている。
なつみの実の母、三歳のなつみの手を引いて登場。右手で携帯電話を持ち、左手でなつみの手を握っている。顔を客席に見せない。

母  孤児院の「あかねいろのいえ」さんですか。いま、三歳くらいの、○色の上着に○色のスカート、○色の靴を履いた女の子がお宅の玄関の外にいます。どうか、保護してあげてください。
施設の女性(携帯から声が聞こえてくる) あなたは…。
母   申し上げられません。
施設の女性 あなた…、自分が何をしようとしてるかわかってるんですか!
母   …わかっています。
施設の女性 保護責任者遺棄! 犯罪ですよ、犯罪!
母   わかってます!
施設の女性 今ならまだ間に合う! すぐにそっちにいきます! あなたもそこにいてくださいね!
母   ごめんなさい…。
施設の女性 わたしに謝ってどうなるんです! 無責任すぎるでしょう!
 

    母、携帯電話の通話を切る。母、一度三歳のなつみをぎゅうっと抱きしめる。なつみを放す。なつみを立たせ、その前にしゃがむ。なつみは客席に正対している。母の顔は客席から見えない

なつみ ママ、だいじょうぶ?
母   なつみちゃん、このあと、知らないおばさんがここにくる。だけど、そのおばさんの言うことをちゃんと聞いてね…。
なつみ ママは?
母   ママは、いっしょにはいられない。だけど、絶対に迎えにくるから! だから、いい子にして待っていて! 
なつみ ママ…。
     
照明が消える。街灯の灯りのみ。

なつみ (明るく、歌うように、ささやくように、気負うことなく、それでいてしっかりと言う)大好きだよ…。

     暗転

二場 なつみの家。 朝食中。

     下手側に照明が点く。台所兼ダイニング。テーブルが一つに椅子が二つ。狭いところに炊飯器や鍋や食器や戸棚や台所道具が詰め込むように置かれている。決して乱雑ではないがと゛うしても狭い。高校二年生のなつみと百合子がテーブルを挟んで座り、食事をしながら話している。なつみは制服。

なつみ お母さん、今日はしおりの家で夕飯を食べてくるから…。
百合子 なつみちゃん、あんまりしょっちゅう、よそ様の家でご馳走になるのはやめてね。
なつみ ここもよその家みたいなもんだし。
百合子 違うでしょ! ここはなつみちゃんの家でしょ!
なつみ いきなり大声出さないでよ…。ただの冗談なのに。
百合子 冗談でも言っていいことと悪いことがあるでしょ!
なつみ はいはい、ごめんなさいごめんなさい…。
百合子 それで、どんなものをご馳走になるの?
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